訪問美容師として働くためには、美容師法や理容師法などの法律に沿って、正しく営業を行うことが求められます。特に出張美容は店舗型の美容業とは異なるため、法的な取り扱いや規定が細かく設けられています。これを知らずに活動を始めてしまうと、意図せず違法営業に該当してしまうこともあるため、慎重な対応が必要です。
まず、出張美容行為自体は違法ではありません。しかし、美容師法に基づき「原則として美容行為は美容所(=美容室)で行うべき」と定められているため、すべての場所で自由に施術できるわけではないのです。出張美容が合法と認められるには、施術の対象者や場所、そして美容師自身が満たすべき条件が厳密に定められています。
例えば、訪問美容の対象者は「疾病、障がい、高齢などの理由で美容所へ出向くことが困難な方」に限定されます。これは、厚生労働省通知や各都道府県の保健所の指導要領にも明確に記されています。単に自宅での施術を希望するという理由では、訪問美容の対象にはなりません。あくまでも福祉的配慮が必要な場合に限られるのです。
また、訪問美容を行うためには、事前に「保健所への届け出」が必要になります。この届け出は、美容所を構えている場合でも必須です。具体的には、以下の情報を記載した「訪問美容届出書」を保健所へ提出し、審査・受理を受ける必要があります。
訪問美容の届け出に必要な項目
項目
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内容の詳細例
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提出先
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管轄の保健所(美容所所在地または営業予定地域の保健所)
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訪問美容を行う理由
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対象者の身体的理由(例:高齢による寝たきり、障がい、入院中など)
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対象者の範囲
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高齢者、障がい者、妊婦、育児中の方など美容所に通えない方
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美容師の資格証明
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美容師免許証の写し、必要に応じて福祉理美容士講習受講証明書など
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衛生管理の体制
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消毒方法、器具管理、衛生用品の持参方法、シャンプー水の使用方法など
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使用する器具や準備品
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携帯式椅子、ケープ、シャンプー用洗面器、衛生手袋、使い捨てマスクなど
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提供する施術内容
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カット、カラー、パーマ、眉カット、顔そり、着付けなど
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営業日時・場所の範囲
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対象者の自宅、介護施設、病院など
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保健所への届け出を済ませた後も、実際の営業活動にあたっては衛生管理の徹底が義務付けられます。例えば、器具はすべて消毒済みの状態で持参し、現場での再消毒が必要な場合に備えて消毒液も携行することが求められます。シャンプーを行う場合には、感染症予防のための水管理や周辺への配慮も重要です。
さらに、訪問美容師が対応する対象者には、認知症や寝たきりの高齢者、身体障がい者、重度の病気療養中の方なども含まれるため、介助や声掛け、状況判断のスキルも求められます。そのため、訪問美容を本格的に始める前には、福祉理美容士の講習を受講することが強く推奨されています。この資格自体は国家資格ではありませんが、現場での信頼性や保健所からの認定にも影響を与える重要な要素となります。
訪問美容の違法性が問われるケースとしては、以下のようなものがあります。たとえば、美容所を持たない美容師が個人で訪問美容を始めた場合。これは「無許可営業」となり、美容師法違反に該当します。また、美容所の登録があるにもかかわらず、保健所に届け出をせずに訪問美容を始めた場合も、行政指導や営業停止の対象となる可能性があります。法律的に見ても、美容師法は罰則規定を持っており、違反があった場合には30万円以下の罰金が科されることもあるため、注意が必要です。
さらに、訪問美容師として働く際は、「どのような対象者に、どのような施術を提供するのか」という点で、サービスの内容と範囲を明確に定めておく必要があります。特に、高齢者施設や病院との契約を行う場合には、施設側との覚書や衛生管理マニュアルの共有が求められるケースもあるため、事前にしっかりと準備をしておくことが重要です。
2025年現在では、訪問美容へのニーズは急速に高まっています。少子高齢化が進み、在宅介護や施設入所者が増加するなかで、自宅や施設で美容サービスを受けたいという声が多く寄せられています。このような背景から、訪問美容師としての活動は今後ますます重要性を増していくと考えられますが、それだけに法律・制度・衛生面の知識と対応力が求められる分野でもあります。
訪問美容師を目指す方は、まずは自身の美容所の運営状況を確認した上で、保健所への相談・届け出を行い、対象者の状態に配慮した衛生的で安心できるサービス提供体制を構築することが大切です。また、福祉施設や病院と連携していく場合には、信頼性の高い実績や専門的な講習受講歴を示すことで、相手先からの信頼を得やすくなるでしょう。今後、訪問美容サービスがますます必要とされる中で、制度を正しく理解し、誠実なサービス提供を行うことが、長く選ばれる訪問美容師になるための鍵といえます。